今回は、このゲームのラスボスについてお話します。
教員には残業手当が支給されません。
企業の社員や一般的な公務員の方でも、サービス残業があったり、残業手当がきちんと支払われないことがあると思います。しかし、教員はゼロです。一切の支給がありません。
そして2016年度の中学校教員の8割が、一か月あたり約100時間超の残業に従事しています※1。
残業手当を払わなくていいなんて、管理者からすれば夢のような制度ですが、これがもたらすのは無尽蔵な仕事の増加です。
仮に残業手当を出さない企業が存在したとしても、利益率の悪い業務は見直されるはずです。しかし学校は金銭的利益を生み出さないので、無駄な仕事を見直す必要もありません。現場の職員がどのように働いているのか調査する必要もありません。効率化を図るための設備投資さえいりません。
利益率の低い仕事が見直されないことで、教員の仕事はどんどん苦しくなり、教育の質はどんどん低下していくのです。
※1
Yahooニュース
中学校教員の8割が月100時間超の残業 働き方改革「上限規制」の対象外
なぜ残業手当が無いの?
法律では、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(昭和四十六年法律第七十七号)、いわゆる「給特法」によって定められています。
かんたん給特法
教員は行政公務員に比べて4%給料を良くする
残業代・休日手当は出さない
特別な場合を除いて、残業や休日勤務を命じない
教員は行政公務員に比べて4%給料を良くする
残業代・休日手当は出さない
特別な場合を除いて、残業や休日勤務を命じない
なぜこのような法律が施行されたのでしょうか。
参考
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法
文科省は以下のように説明しています。
文科省「教職調整額の経緯等について」より抜粋
まず、修学旅行や遠足などの勤務時間についてですが、管理できない理由が見当たりません。計画に基づいて実行されますし、ずれたら記録・報告すればいいだけです。
家庭訪問は、企業の出張や外回りと同様にとらえてよいでしょう。出張があるから残業手当は出せないなんてことにはならないはずです。
参考
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法
勤務時間をチェックできない……はずがない!
この法律の根拠はシンプルで、「教員の勤務時間を管理することが難しいから」というものです。え? と思いますね。勤務時間が定められているのに、どういうことでしょうか。文科省は以下のように説明しています。
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まず、修学旅行や遠足などの勤務時間についてですが、管理できない理由が見当たりません。計画に基づいて実行されますし、ずれたら記録・報告すればいいだけです。
家庭訪問は、企業の出張や外回りと同様にとらえてよいでしょう。出張があるから残業手当は出せないなんてことにはならないはずです。
休業期間と自己研修
世間の常識と異なり、教育法規では、夏休みや冬休みを「休業期間」と言います。バリバリ営業中なのですが。さて、一般企業に言い換えれば閑散期のようなものですが、どうしてそれがあると勤務時間の管理が難しくなるのでしょうか。
教員は、ほかの地方公務員と違い、勤務時間内に学校外で自主的な研修を行うことが認められています※2。具体的には、承認を受けた研修を自宅で行ったり、図書館で教材研究をしたりすることなどです※3。これは、教員の仕事の性質として、与えられた仕事をこなすだけではなく、教員個人による創造性が求められるからです。
とはいえ授業がある日に学校外で研修や教材研究とはいきません。チャンスは夏休みなどの休業期間になるわけです。
たしかに学校外で自主的な研修をしている時間を監督することは難しいですね。それならば、「学校外で自主的な研修をしている場合には、残業手当を支給しない」とするのが適切ではないでしょうか。「学校外で自主的な研修をしている時間」という、ものすごく限られた状況を監督できないからといって、それ以外の時間外勤務もぜーんぶ無給にするというのは、とうてい納得できる話ではありません。
ちなみに、この「勤務時間内・有給・学校外の自主的な研修」、通称「職専免研修」は、法律では認められているものの、現在ほとんど行われていません。他の仕事が過密で研修の余地がないのと、校長の承認が下りないことが理由です。
私も教師を10年やって、一度も行ったことがありません。そんなレアなケースに対処するために、毎日の残業が記録されないというのは、とても正当性が認められるものではないでしょう。
※2
教育公務員特例法22条2項
※3
義務教育諸学校等の教諭等に対する教職調整額の支給等に関する法律の制定についての意見の申出に関する説明(昭和46年 人事院)
参考
文部科学省 教職調整額の経緯等について
文部科学省 昭和46年給特法制定の背景及び制定までの経緯について
給特法の問題点
おわかりのように、現在の学校現場において、給特法はデメリットの大きい制度となっています。問題点を整理しましょう。1 残業代を支給しないことによる、仕事量の増加
企業は人件費を抑えるため、そして仕事の効率を上げるために、利益率の低い仕事は切り捨てます。ところが、教員にはいくら仕事をやらせても、人件費のマイナスがありません。問題が生じるたびに新しい業務が上乗せされ、それまでの業務が見直されることはないのです。個人的な話ですが、私の超過勤務時間は一か月あたり120時間です。多い月では200時間にもなります。22時前に職場を出られれば早い方で、午前0時を回る日が続くこともありました。このような状況は私だけのことではありません。近所の学校の明かりが、夜何時まで点いているか見てみれば一目瞭然でしょう。
これでは教育の質が高まるはずがありません。
2 超過勤務を実質禁止していない
現場に勤務していて、校長から「勤務時間外だがやってほしい」と、はっきり超過勤務を命じられることはほとんどありません。しかし仕事の量があまりにも多いので、実質的に超過勤務をせざるを得ないのです。文科省はこのような実態を知りながら、「超過勤務を命じないように」と通達するだけです。罰則がないどころか、勤務時間の調査もなく、超過勤務を防止しようとする具体的な動きが感じられません。
※ 実際には文科省の方々も現状を解決しようと頑張っていらっしゃるのでしょうが、体感としては恨み節を申し上げたくなります。
3 時間外労働が勤務と認められない
「学校外での勤務時間をチェックできないから、時間外勤務手当は出せない」、「だから時間外勤務を命じない」という話だったはずが、いつの間にか「時間外勤務を命じていないのだから、時間外の業務に公務遂行性はなく、公費支給はできない」という、逆転の理屈が展開され始めました。これにより、教員には残業手当が支給されないばかりか、「残業は教師が勝手にやってること」、「残業は教師の責任」と見なされています。
参考
文部科学省 教員の職務について
早急な解決を
私は給特法の改正・撤廃を強く望みます。そして労働基準法にのっとった時間外勤務手当の支給を行うべきです。もちろん、本当は残業がないのが一番です。しかし「残業を命じてはいけない」という法令が意味をなさなかったのは過去に学ぶ通りですし、現実に直ちに時間外労働を無くすことは難しいでしょう。
ですから、現状では、時間外手当という枷を設けることが、業務の増加を止める最良の手段であると考えます。
また、問題はサービス残業のみにとどまりません。
根本的な体制が変わらなければ、たとえ残業手当が支給されたとしても、今度は持ち帰り仕事が増えるだけでしょう。
- 勤務実態の継続的調査
- 業務の精選
- コンプライアンスの徹底
これら教育に関わる管理体制の改革こそが、教育の質を高めることにつながると確信しています。