顧問は職務じゃない!? Isn't an manager official work !?

以前の記事が長くなってしまったので、マニアックな話はこちらに分けました。
この記事では、部活動の法令上の位置付けについてくわしくお話しします。さてさて、「部活動の指導は職務命令できない」という話でしたね。

前回の記事
顧問って断れないの? Can't we decline to be a manager ?

©諌山創/講談社



職務命令できないって初耳なんだけど?

そうだと思います。校長はおろか、教育委員会でさえ職務命令できると誤解しているでしょう。しかし、

部活動の指導を職務命令することはできません。
というか、職務ではありません。

これらの事実は明文化されていませんが、法令や答申を読むことで判断できます。
……読むことになりますよ、準備はいいですか。


地方公務員には、上司の職務上の命令に従う義務があります。

地方公務員法32条(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)

職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規定に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。


あたりまえですが、職務でなければ従う義務はありません
それでは、部活動の指導は職務にあたるのでしょうか。





部活動の指導は正規の職務ではない

部活動は職務か、職務ではないか。
この問題はさまざまな議論を呼んでいますが(そしてそんな基本的なことがはっきりしていないことに唖然としますが)、答申等複数の文書から判断すると文科省は職務ではないと位置付けていることがわかります。

しかし、誰もが顧問を先生の仕事だと思っています。実質的に職務として行っているのに、報酬や補償はありません。なんだか非正規雇用みたいな話ですね。


そもそも教員の「職務」って何?

教員の職務とは何かはっきりさせておきましょう。
中央教育審議会の資料によれば、「職務」と「校務」について次のように定義されています。

「職務」は、「校務」のうち職員に与えられて果たすべき任務・担当する役割である(具体的には、児童生徒の教育のほか、教務、生徒指導又は会計等の事務、あるいは時間外勤務としての非常災害時における業務等がある。)。

「校務」とは、学校の仕事全体を指すものであり、学校の仕事全体とは、学校がその目的である教育事業を遂行するため必要とされるすべての仕事であって、その具体的な範囲は、1教育課程に基づく学習指導などの教育活動に関する面、2学校の施設設備、教材教具に関する面、3文書作成処理や人事管理事務や会計事務などの学校の内部事務に関する面、4教育委員会などの行政機関やPTA、社会教育団体など各種団体との連絡調整などの渉外に関する面等がある。

出典


簡単に言うと、

校務
学校運営に必要なすべての仕事

1 教育課程に基づく教育活動
2 設備・教材の整備
3 学校内の事務
4 渉外


職務
校務が職員に与えられると職務になる。

1 教育
2 教務
3 生徒指導関係の事務と会計
4 非常災害時の事務

ということになります。
学校教育法第三十七条第4項で「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する」と定められているので、すべての「校務」は校長がつかさどるものであることがわかります。もちろん実務を一人で行うわけではなく、分掌組織を作り、職務命令を用いて校務を分担します。これが各職員に割り当てられた「職務」というわけです。


「教育課程に基づく」←ポイント

前述の職務の定義を見るとわかるように、「教育」は教職員の職務です。もちろん、どんなことでも教えればいいというわけではなく、校務の定義にあるように、「教育課程に基づく教育活動」である必要があるわけです。

教員にとってはなじみ深い「教育課程」ですが、一般の方は聞いたことがないでしょう。教育課程というのは、「学校で一年間こういう時数でこういう教育をしますよ」という計画のことです。法令上は校長が編成します。

校長が編成するわけですが、この編成の方針を定めているのは文部科学大臣です。つまり、この文部科学大臣が定める教育課程の基準に含まれるものが、職務としての教育であるわけです。


教育課程の基準=学習指導要領


ご存知の通り(一般の方はご存じでない通り)、文部科学大臣が教育課程の基準として定めているのが、学習指導要領です。ここに定められた内容を教育することが教員の職務であり、そうでなければ職務と認めることはできません。つまり、部活動が学習指導要領に定められていれば職務、そうでなければ職務ではないということです。見てみましょう。

現行の中学校指導要領(平成20年度改訂・通称「生きる力」)においては、部活動に関する記述が見られます。

第1章 総則
第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項

(13)生徒の自主的、自発的な参加により行われる部活動については、スポーツや文化及び科学等に親しま せ、学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等に資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際、地域や学校の実態に応じ,地域の人々の協力,社会教育施設や 社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行うようにすること。

ここでは、部活動は、学校で行われる教育活動の一環ではあるものの、教育課程に含まれるものではないとしています。


また、新しい中学校学習指導要領(平成29年度一部改正・平成33年度実施)でも、このように記述されています。

第1章 総則
第5 学校運営上の留意事項

ウ 教育課程外の学校教育活動と教育課程の関連が図られるように留意するものとする。特に,生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化,科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵かん養等,学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること。


両者の記述によれば、「部活動は、教育課程外の学校教育活動」と規定されています。
教育課程外の学校教育……とはなんでしょうか。「特に部活動」と書かれていますが、他にもあるのでしょうか。「教育課程外の学校教育活動」が他に定義されているのか調べたところ、部活動以外に存在しませんでした



「部活動」を除けば「教育課程外の学校教育活動」の枠も消える
出典
文部科学省:中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会(第2回)配付資料4


前述の学習指導要領の記述を解釈すれば、「部活動は、学校という場所で行っている教育的な活動ではあるけど、文部科学大臣が定める教育課程ではないから、とくにやり方は決まってないよ。でもあんまりめちゃくちゃやられても困るから、教育課程の考え方から外れないようにね!」ということになるでしょうか。

ともかく、「教育課程外」と明記されている以上、前述の「校務=教育課程に基づく教育活動」に該当しないことは明白です。したがって、その指導を職務命令することはできません





え、じゃあ部活はやっちゃだめなの?

もちろん、部活動は学校教育の一環なので、勤務時間内にその指導を行うことにまったく問題はありません。ただし職務ではないので、教師は他の職務を優先する必要があります。職務専念義務があるからです。

それと、文科省の答申を厳密に解釈すれば、校務分掌に部活動担当を含めることは誤りということになるでしょう。校務ではないのですから。





放課後の部活指導はなんなの、趣味?

放課後や土日に行っている部活動の指導は、職務でなければなんなのでしょうか。

結論を言うと、文科省による回答は、教員の自発的行為です。

先ほど引用した中央教育審議会の資料には、以下のように書かれています。

超勤4項目以外の勤務時間外の業務は、超勤4項目の変更をしない限り、業務内容の内容にかかわらず、教員の自発的行為として整理せざるをえない。
このため、勤務時間外で超勤4項目に該当しないような教職員の自発的行為に対しては、公費支給はなじまない。また、公務遂行性が無いことから公務災害補償の対象とならないため、別途、必要に応じて事故等に備えた保険が必要。

つまり整理すると、
  • 勤務時間外の部活指導は、教員の自発的行為
  • 公費は支給できない
  • 公務遂行性がない(やるべき仕事ではない)
  • 災害補償はしない
ということになります。

全ての公立学校における顧問の先生は、自分がこのような立場で指導を行っているということをしっかりと理解しておく必要があるでしょう。





でも職務命令だって言われるよ?

法令上は職務ではなく、教員の自発的行為である部活動指導。
それではなぜこれほどまでに、「顧問は教員の仕事だ」という考え方が定着してしまったのでしょうか。

それははっきり言って、みんなが教員を犠牲にしてきたからです。

文部科学省も、
教育委員会も、
管理職も、
保護者も、
そして教員自身も、

みーんな教員を犠牲にして、この都合のいいシステムを作り上げてきたからです。
まあ私に言わせれば一番悪いのは教員自身でしょう。「自分が我慢すればいい」としてきた結果、冗談抜きで病人と死人の山です。


あまりに文句を言わないできたせいで、近年は都合のいい文章を書かれ放題です。





既成事実化のラッシュ

たとえば、東京都教育委員会が発表している「体罰根絶に向けた総合的な対策について」という資料には、以下のように書かれています。

東京都教育委員会においては、既に、部活動指導を本務として校務分掌に位置付けていること、人事考課の業績評価の評価項目に位置付けていること、週休日等の部活動指導は振替休日や特殊勤務手当で対応していることなど職務との関連性を明確にしている。
一方、部活動を学校管理運営規則に位置付けていない区市町村教育委員会があることや、「部活動の指導は、教員の本務ではない。」「部活動指導はボランティアで行っている。」と誤解している人がいる状況を改善していくことが課題である。

「部活動指導はボランティアではなく、教員の本務である」と言いたいようですが、根拠はズタズタで、暴論もいいところです。

  • 「職務」と言ってしまうと給与を出さなければいけないので「本務」
  • 校務分掌に位置付けている → 違法
  • 業績評価の評価項目に位置付けている → 違法
  • 振替休日で対応している → 実質使用不可
  • 特殊勤務手当で対応している → 日額3600円で「対応している」?
  • 職務ではないよ。でも職務と関連することだから職務と同様にやってね!?

……つっこみが間に合いません。「自発的行為」とみなされて困っているのはこっちなのに、「ボランティア気分はやめろ」とはどういうことでしょうか。そもそも「ボランティア気分だから体罰が起こる」というのは、世のボランティアの方々に失礼すぎます。
こんなむちゃくちゃな文章が公式に報道発表されているのです。そりゃあ誰もが部活動を教員の仕事だと思って疑わないでしょう。



さりげなくこんな答申もあります。
中央教育審議会 教職員給与の在り方に関するワーキンググループ 答申

現在、部活動は、教育課程外に実施される学校において計画する教育活動の一つとされている。部活動指導は、主任等の命課と同様に年度はじめに校長から出された「部活動の監督・顧問」という職務命令によって命じられた付加的な職務であり、週休日等に4時間以上従事した場合には部活動指導業務に係る教員特殊業務手当(部活動手当)が支給されている。

付加的な職務」という言葉のグレーゾーン感といったらありません。職務じゃないけど『付加的な職務』だから職務命令できるよ」なんて言い分を許したら、なんでもかんでも職務命令されてしまいます。この答申を根拠に、「顧問を職務命令することは遵法である」という誤解が生まれてしまいました。これほんと許されないからね!



さらに2018年にはスポーツ庁により、「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が策定されました。

校長は、学校の設置者の「設置する学校に係る運動部活動の方針」に則り、毎年度、
「学校の運動部活動に係る活動方針」を策定する。
運動部顧問は、年間の活動計画(活動日、休養日及び参加予定大会日程等)並びに
毎月の活動計画及び活動実績(活動日時・場所、休養日及び大会参加日等)を作成し、
校長に提出する。
校長は、上記ウの活動方針及び活動計画等を学校のホームページへの掲載等により
公表する。

やったー、どんどん仕事が増えるよ!


校長は、生徒や教師の数、部活動指導員の配置状況を踏まえ、指導内容の充実、
生徒の安全の確保、教師の長時間勤務の解消等の観点から円滑に運動部活動を実施で
きるよう、適正な数の運動部を設置する

おやおや、「自発的行為」のはずが、設置することが義務みたいになってるよ?
もう実質義務だけど、文章化されるのは許されざるよ。


校長は、運動部顧問の決定に当たっては、校務全体の効率的・効果的な実施に鑑み、教師の他の校務分掌や、部活動指導員の配置状況を勘案した上で行うなど、適切な校務分掌となるよう留意するとともに、学校全体としての適切な指導、運営及び管理に係る体制の構築を図る。

教育課程にないものを校務分掌とすることはできないんですが……。


以上のように、行政は部活動を「職務」とは言わず、報酬も補償も出さず、あたかも義務であるかのように、やることだけはどんどん追加してきます。これまでは無言の圧力でしたが、近年それを堂々と文章にしています。これを看過しては、近く教員に人権はなくなるでしょう。


とにかく、やべー答申やガイドラインが出されたら、きちんと反発しましょう!
知らないでいるとどんどん既成事実化されてしまいます。





まとめ

ここまでの内容を整理しましょう。
部活動の顧問は、

法令上は、「部活動は職務ではなくて教員の自発的行為だから、報酬も補償も出しません♪」
答申では、「部活動は職務だから職務命令できます。責任あるよ・仕事増やすよ・拒否できないよ~♪」

という、二枚舌体制によって行政に都合よく運営されています。こんな分かりやすい搾取がまかり通っているのです。


自分の権利を守りましょう。

次回
君は鳥居裁判を知るべきだ You should know "Torii's trial"

まずはきちんと知ること。そして、行動することです。