渡されたのは大きなバトン It is a big baton what was handed

この記事は以前の記事
君は鳥居裁判を知るべきだ You should know "Torii's trial"
の後半です。長かったので分けました。

裁判そのものについては前回の記事をご参照ください。
この記事では、それを受けて私たちがこれからどのように行動していくべきかを考えます。





渡されたのは大きなバトン

教員の待遇改善にとって大きな一歩を踏み出したといえる鳥居裁判ですが、課題はまだ多く残されています。この判決は、いわば火種であり、バトンです。私たちがこの判決を知り、広め、行動に移していかなければ、いずれこの火は消えてしまうことでしょう。



まだ見ぬ多くの被害者

鳥居さんのように、過重労働の末に体を壊し、働けなくなっている教員は全国に大勢います。それはもうたくさん。私もその一人です。亡くなった人さえ少なくありません。

では、その人たちには何らかの補償がなされたのでしょうか。
病気になって働けなくなった教員には、傷病手当が支給されます。しかし、それは過重労働の責任に対する補償ではなく、生活保障です(いやほんとに助かってますけども)。


残念ながら、適切な補償がなされていないのが現状です。
地公災は、2006年から2016年までに過労死した公立学校の教員は63人※1としています。しかし、過労死ラインの公立教員27万人※2が10年間働いて63人です。相当数の傷病者や死者の遺族が泣き寝入りしている実態があります。

だって、誰もが鳥居さんのように戦えるわけではないのですから。病気の心身を抱えて、外に出歩くことすらままならない。それに、時間外労働を証明できる証拠はどこにもないので、公務災害補償を請求するだけでも本当に大変なことです。まして13年間も争議する苦労を考えたら、自分にはできないと泣き寝入りするのもしかたのないことでしょう。


そのような大勢の人たちを、どうすれば救うことができるでしょうか。労働者と行政が一体になって考えていかなければならない問題です。
また、被害者への救済と同時に、これ以上被害者を一人でも増やさないようにすることが大切です。


※1文春オンライン 教員の過労死63人も「氷山の一角」 “ブラック職員室”の実態
※2
(小学校41万人×34%)+(中学校約24万人×56%)≒27万人
高校はデータがないため除く。





私たちはどう行動していくか

最大の課題は、司法が違法と言ったにもかかわらず、文科省は依然として「時間外労働は教員の自発的行為」という声明を貫いているという点です。文科省の考え方が変わらない限り、教員の苦しい待遇が改善へと向かうことはないでしょう。

これを改めるためには、今回の判例を十分に生かし、行政の方針が違法であることを証明していく必要があります。


1 きちんと知ろう・話し合おう

まずは、多くの人がこれらの事実を知ることです。教員はもちろん、世の中の人々が、それぞれに必要な情報を知ることが大切です。

教員同士は、自分たちの待遇に関して、積極的に情報共有をしましょう。今後も、どんどん新しい答申やガイドラインが公表されるでしょう。おかしい事にはみんなで「おかしいよね」と話し合うことです。


教育関係者だけが知ればよいということではありません。教員の待遇は教育の質に直結する問題です。
もちろん、みんなが給特法や文科省の答申、鳥居裁判についてまで知るべきとは思いません。ただ教員の多忙化が起こっていることを知り、どうしてそれが起こっているのか、興味をもってほしいのです。

家族で、友人同士で、これらのことを話し合ってみてください。


2 正しい認識をもとう

多くの教員は、自分たちの権利が著しく侵害されていることを正しく認識していません。「学校はブラック」なんて言いながらも、「それでも給料はほかの公務員よりもいいし、福利厚生も手厚いしね」「みんな大変だからしょうがないよね」と自分を納得させて働いています。
それは良い事でもあり、悪い事でもあります。後ろ向きなことばかり言っていては自分も周りも嫌な気持ちになりますから。でも、権利を主張しないのも、同じく幸せから遠ざかる行為なのです。

今、世の中の考え方も正しく変わりつつあります。
なぜ違法性は明確であるにもかかわらず、私たちは部活動の指導を断れないのだと思いますか。答えは簡単です。今はまだ、教師がそのような選択をすることについて、生徒や保護者からの理解が得られないからです。「部活は先生の仕事。放課後・土日の指導はあたりまえ」という世の中の考えが変われば、体制も変わっていくはずです。


3 もっと激しく行動しちゃう?

次のことは、誰にでもできることだとは思いませんが、みんなが力を合わせればできるかもしれません。
  • 超勤訴訟を起こす
  • 公務災害補償を請求する
この二つがポイントになると思います。
実際、給特法が制定された理由は、60年代に全国で勃発した「超勤訴訟」によるものです。司法の力を借りることで、行政を動かすことができた例です。その当時は2時間弱の超過勤務に対して全国の教員の怒りが爆発していたわけですから、今の教員がいかにおとなしいかがわかりますね。

おすすめなのは、自分の勤務様態を記録しておくことです。どの仕事にどのくらいの時間をかけたかを記録しておけば、仕事の無駄もはぶけますし、ぶっ倒れたときには訴訟の証拠となります。


4 ゴールは?

ゴールというものはありませんが、目下の目標は給特法の見直し・撤廃です。

おさらい給特法
  • 教員は行政公務員に比べて4%給料を良くする
  • 残業代・休日勤務手当は出さない
  • 特別な場合を除いて、残業や休日勤務を命じない

この法律が正しく機能していれば、教員に時間外勤務は生じないはずでした。しかし現実には、残業手当を支払う必要がなくなったことにより、業務の莫大な増加を招いてしまったのです。

「時間外勤務を命じてはならない」という法律をいくら定めても意味がない以上、給特法を撤廃し、労働基準法にのっとった時間外勤務手当を発生させることが、業務改善への近道です。


そうなれば、この国の教育もずいぶん充実することでしょう。
命令されなくたって、生徒のためにいろいろやっちゃうのが教師です。だってそのために教師になったんですから。


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