どこよりもわかる給特法 Easiest "The special low about teacher's salary"

給特法」という法律を知っていますか。
もし教育関係者でないのに知っていたら、あなたは相当の達人です。教育関係者であっても、実際よくわからないというのが実情だと思います。

ですが、この法律は現在の教育環境を考える上で非常に重要です。この法律が示すところを正しく理解し、子供たちや社会のために今何が必要なのかを一緒に考えていきましょう。






超ざっくり給特法

この法律の正式名称は、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」といいます。その名の通り、教員の給与に関して、特別な措置を取り決めています。とくに重要なのは次の三点でしょう。

  • 給与に対し、4%の教員調整額を支給する
  • 教員には時間外勤務手当・休日勤務手当を支給しない
  • 勤務時間を超える勤務は、政令と条例に定める場合に限る

もっと簡単に言い換えれば、

  • 教員は行政公務員に比べて4%給料を良くする
  • 残業代・休日手当は出さない
  • 特別な場合を除いて、残業や休日勤務を命じない

ということになります。
まずはここまでを押さえておきましょう。


参考
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法





「残業や休日勤務を命じない」はずが……

特別な場合とは次の場合です。「超勤4項目」と呼ばれています。

教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむをえない必要があるときに限るものとすること。

イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
ハ 職員会議に関する業務
二 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

これも簡単に言い換えましょう。

次の場合を除いて、教員には時間外勤務を命じない。
  • 実習
  • 行事
  • 緊急の職員会議
  • 災害・緊急の生徒指導

というわけです。
なんだ、全然問題ない感じがしますね。でもそれならどうして、多くの先生たちが残業にあえいでいるのでしょうか。実は、この法律にはいくつもの重大な落とし穴があるのです。


1 業務量の規定がない


勤務時間は規定されていますが、業務量の規定がありません。よって、勤務時間内の業務量をいくらでも増やすことができます

2 違反した場合の罰則がない


「時間外勤務を命じてはならない」としていますが、実際に時間外勤務をさせた使用者に対する罰則はありません。罰則がなければ取り締まる必要もないので、職員室にはそもそもタイムカードなどの勤務時間を記録するシステムが存在しません。違法な雇用の証拠も残らないわけです。

3 時間外労働が勤務と認められない


文科省は、この法律を根拠として、「特別な場合を除いて時間外勤務を命じないという法律がある以上、時間外労働は、教員の自発的行為である」と主張しています。この解釈により、教員の時間外労働には残業手当はおろか、労災も認められないのです。


これら法律の欠陥によって、

  • 仕事は無限に増える
  • 勤務時間内に処理できないのは個人の責任と見なされる
  • 時間外に働いても手当は出ない
  • 労働の証拠が残らないから労災も認められない

という、最凶の労働環境が作られてしまいました。時間外勤務から教員を守るはずの規定だったのに、今や「時間外労働をしても勤務と認めない」ことの根拠として、この法律は利用されているのです。なんという悪堕ち!

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残業手当はゼロ

次に、時間外勤務手当・休日勤務手当を支給しないことによって起こる問題を整理しましょう。


1 定額働かせ放題


給特法が正しく運用されれば、残業が存在しないので、残業手当がなくとも何の問題もなかったはずでした。しかし、前述のとおり仕事量の規定と残業の罰則がなかったため、実際には単なる残業手当無し、悪夢の定額働かせ放題が実現してしまいました。

2 業務の爆発的増加


学校では、新しい業務が追加されることはあっても、以前の業務が削減されることはありません。いくら働かせても残業手当を支払わなくていいので、使用者側からすれば仕事を減らす理由がないからです。

3 教師本来の仕事ができなくなっている


教師が多忙化すれば、生徒と触れ合ったり、授業を準備したりする時間がなくなります。現在の教師は大量の提出書類に追われて、本当に大切な仕事にかけられる時間を失っているのです。



4%の教員調整額

この法律によって、教員は給与に対し4%の教員調整額というボーナスをもらっています。「同じ自治体の地方公務員一般行政職に比べて4%給与が良い」と読み替えることもできます。

ただし前述のとおり教員には時間外&休日勤務手当がありませんから、この調整額はまったく割に合っていません。ためしに計算してみましょう。ひと月の決められた勤務時間は155時間ですから、その4%は6時間12分です。いっぽう実際の残業時間は月に100時間以上※1ですから、話になりません。

この支給額があることによって、「調整額が出てるんだから文句を言わずに残業しろ」という理論が横行しています。この制度も一刻も早く撤廃すべきです。


※1
Yahooニュース
中学校教員の8割が月100時間超の残業 働き方改革「上限規制」の対象外





まとめ

成立当時の社会情勢からはこのような事態が予見できなかったのかもしれません。しかし、現在の給特法は、明らかに上記のような問題の原因となっています。教員の待遇以上に、教育環境の悪化が心配です。それにも関わらずこの昭和46年に施行された法律が運用され続けているのは、カネと人を天秤にかけてカネを取る愚行に他ならないでしょう。

給特法の撤廃こそが、現在の多くの教育問題を解決する糸口です。無駄な仕事を削減し、教員という人材をもっと有効活用するべきではないでしょうか。


給特法についてさらに知りたい方はこちら
成立の根拠についてはこちらの記事
 残業手当はゼロ Overtime pay is zero

文部科学省の答申はこちらを参考に