大野さんを引退させてあげてほしい Free Ohno




嵐が活動休止を発表しました。
平成も最後の2019年。1月27日のことです。

国民的アイドルグループの活動休止発表は、ファンのみならず多くの国民が衝撃を受けました。芸能ニュースなんて知るよしもないと思われた祖父(89)ですら驚いていましたが、家族はむしろそのことに驚かされました。

一週間くらいして、ニュース番組やワイドショーでの報道がひと段落しても、Twitterではハッシュタグ「#活動休止」を付けたツイートがとどまることを知らない様子です。これだけ長くたくさんの人たちの話題に上る事柄もあまりないので、人々のショックや関心の大きさがうかがえます。

そういうわけで、この件についてはさんざんコメントされつくした感があるのですが、私が思ったことはそれらとちょっと違うので、やっぱり言っておこうと思います。


大野さんを引退させてあげてほしい。


……これが彼らの会見を見て私が思ったことです。





「辞めたい」という気持ち、ちゃんと受け止めて

「辞めたい」と思ってから、それを口に出すまでに、人はどれだけ深く長く悩むのでしょうか。実際に悩んだことのある人にしかわからないでしょう。「辞めたい」と相談すると、「そんな簡単に辞めるなんて言うなよ」と紋切り型に励ます人がいますが、よくも人が「簡単に」言っていると思えるものです。この一言が言えずに、どれだけの人が自死しているか。誰かに「辞めたい」と言われたら、まずはどれだけその人が苦しんできたかを想像するべきだし、その勇気と、打ち明けてくれた信頼に感謝すべきです。

その点、嵐のメンバーは大野さんの気持ちをしっかりと受け止めたように感じます。実際にその場にいたわけではないですが、会見から伝わってくるものがありました。しかし……。





なんかすり替えられてない?

「辞めたい」と「休みたい」は、なぜかよく混同されます。
今回も、

「活動休止は悲しいけど、大野くんが『休みたい』って言えることに泣いた」
「大野くんが休みたいときに休めてよかった」
「大野くんが休みたいって気持ち、メンバーもファンも理解してるよ」

という温かいメッセージを目にすることが多かったのですが、大野さんが当初希望したのは「嵐としての活動を終えたい」ということだったはずです。いつの間にか「休みたい」ってことにされている……?

その後、「大野くんの夏休み」という言葉がファンのコミュニティーで流行しました。「活動休止を悲しくとらえないで、大野くんの夏休みだと思って応援しよう」というスローガンです。悪意はないのでしょうが、大野さんの気持ちを理解しているとは言えないように感じます。


「辞めたい」というのは、もうその職場に戻りたくないということです。だから、「辞めたいと思うほど辛いなら、少し休んでみては」という助言は、本人からすれば何の解決にもなっていません。もしそういうことを言った覚えがある人は、相手を真綿で殺しにかかっているということを自覚しましょう。もちろん、休んだ結果考えが変わって仕事を続けるということも十分考えられますから、休みを勧めること自体が間違っているわけではありません。ただ言い方として、「辞めたいほど辛いなら休めば?」と言うのはおかしいですし、相手は「わかってもらえなかった」「辞めちゃだめなんだ……」と、さらに追いつめられてしまいます。

大野さんは二十年以上続けた仕事を「終えたい」と言っているので、おそらくその気持ちはかなり真剣であり、決してしばらく休みたいわけではないと思います。さまざまな方の気持ちや利害を考慮して、活動休止という判断に至ったのでしょうが、一番考慮されるべき大野さんの希望は、誤魔化されてしまったように思えます。





「活動休止」では、本当の意味で休めない

「休職」も「辞職」も、あるいは単なる「休暇」も、仕事から離れるという意味では同じように見えるかもしれません。しかし、本人の精神的な負担から見れば、その差はとてつもなく大きいということを言っておきます。

第一に、休職は復帰が前提となります。本人が「休みたい」と言っているならまだしも、「辞めたい」と言っているのですから、もうその職場には戻りたくないわけです。戻りたくないのに、「早く戻ってきてね」「いつ戻ってくるの?」と応援され続けるのはマジでかなり地獄です。本人も、「早く復帰しなきゃ」と焦ってしまい、全然気持ちが休まりません。
「少し休んで元気になってまた帰ってきて」というのはファンの願いとして当然ですが、「辞めたい」と思っているほうからすれば、時限爆弾つきでバカンスに行かされるようなもの。落ち着いて休めるわけがありません。

第二に、次のステップへ進めないことがあります。
休職している間は、新しい仕事を始めることができません。辛い気持ちを転換するには、新しいことに目を向けるのが一番ですね。でも、それが許されないので、いつまでも今の仕事のことばかり考えて悩み続けることになってしまいます。
さらに、休んでいる間はキャリアが空白になります。職歴上は在職と扱われますが、実務経験は積めません。同僚や後輩がどんどん力をつけている間に、一人取り残されていく焦り。いざ復帰しても、もう自分なんか戦力にならないかもしれない。そういう不安を感じ続けるのが休職です。





休職への中傷・ハラスメント

私は仕事ができなくなってから二年以上、職場に休みをいただきました。「二年の休職!? そんなに休めるなんてうらやましい!」――忙しく働いている方ならそう思われるに違いないでしょう。夏休みのようなものと思われるのかもしれませんね。隣の芝はあいかわらず青い。私からすれば、健康に働けることのほうがずっと幸せだと思います。

「そんなに長く休めるの?」「一般企業だったら、戻ってきたとき机ないよ」「働いてないのに給料もらえるってやばくない?」「いーなー、時間めっちゃあるじゃん」……。私の受けている福祉を知った人は驚き、なんとなく不平感を抱くようです。それを口に出すかどうかは別としても。
まあ、辞めたら辞めたで「この先無職じゃん、どうすんの?」「奥さんに食わせてもらう気?」とか無神経に聞かれることも多いので、休職・辞職ではなく言う人は言う、言わない人は言わないというだけかもしれません。





なんだかんだ言いましたが

騒動の原因を邪推したり、芸能事務所の戦略の話だったり、ファンの応援だったり批判だったり……、いろいろな意見が交わされています。でも、苦しんでいる人の悩みが解消されていないってことに、というかそれだけじゃないですか、この話で大事なところって。みんなが当たり前に目を向けるべきところを、間違わないでほしいと思います。