学校のテストの採点について、「書いてない項目で減点するのはおかしくないですか」という声を耳にすることがあります。
具体的には、
- 2×8を、8×2と書いたら不正解になった
- 指示はないのに、さくらんぼ計算をしていないからと減点された
- 3を3.0と書いて減点するなら、「できるだけ単純に」などの指示があるべき
たしかに、テストという公平性が求められる場において、暗黙のルール・不文律があっては混乱を招くと思われるかもしれません。しかしそれは誤解です。
不文律によって成立する
そもそもテストは、普段あまり意識していないだけで、膨大な量の不文律によって成立しています。たとえば国語のテストは、「日本語で解答する」という不文律の上に成り立っています。算数においては、「アラビア数字を用いる」という約束があります。ほかにも、- 10進法を用いる
- もっとも単純な形で解答する
- 問題文にある単位で答える
- かけられる数とかける数の順序を合わせる
- 指示がなければ帯分数でなく仮分数で表す
これらのルールをすべて問題に表記することは困難です。ですが、指示がなかったからといって、「530円」と答えるべきところを「53000銭」と答えてもいいだろうかと問われれば、いいと答える人は少ないでしょう。っていうかテストじゃなくて日常生活でもだめですね。なぜ私たちがそのように判断するかというと、これらの明文化されていないルールを、知っていて認めているからです。
ルールにとって大事なのは、「明文化されているか」ではなく、「知られているか・認められているか」ということなのです。
採点基準は「授業準拠」
では、子供たちはそういった不文律を、どこで理解すればよいのでしょうか。テストにおけるルール……というか答え方を学ぶ場所は、授業です。子供たちは授業を通じて、先に上げたような答え方の約束を一つずつ理解します。
ですから、授業で教えてもいないルールをテストで突然適用するようなことがあってはいけません。普段の授業でさくらんぼ計算を習慣づけていないのに、急にテストで要求するのは誤りです。逆に、普段の授業で常にさくらんぼ計算をするように指導されているなら、それは書かれていなくてもテストのルールになります。なぜなら、授業で学んだことが身に付いているかどうかを計るのがテストだからです。
テストの原則
・ テストの採点基準は「授業準拠」
・ テストの問題は、授業で学習したやり方で答える
・ テストの採点基準は「授業準拠」
・ テストの問題は、授業で学習したやり方で答える
さらに言えば、教師は子供が答え方の約束を理解しているかどうかを、授業の中でチェックしなくてはいけません。たとえば、ある子供のノートがすべて平仮名で書かれていたとしましょう。それを放置していたとすれば、子供がテストをすべて平仮名で解答したとして、教師にも責任があります。その子にとって、「漢字を使って書く」というルールは、認められていない状態にあるからです。
ところで、答え方のルールは時代によって変わります。「かけられる数・かける数」やさくらんぼ計算に批判が集まる一方で、約分や仮分数への批判を聞かないのは、大人たちが前者を習っていないから受け入れにくい、というのも一因ではないでしょうか。自分たちが習っていない方法を見ると、つい首をかしげたくなるのも無理はありません。でもだからといって、「そんなの聞いたことない」「無駄だ」と断ずるのは早計でしょう。どのルールも方法も、きちんと理由があって存在しているに違いないのですから。
次の項では、ルールが存在している理由についてもお話しします。
その採点基準になるのはどうして?
学校のテストの目的は、授業で学んだことが身に付いているかどうかを計ることですが、その他の試験ではどうでしょうか。ここで、テストの種類と目的をまとめておきましょう。
テストの目的
学校のテスト……授業で学んだことが身に付いているかどうかを計る
模試 ……自分の学力を全国の受験者と比較する
入試 ……その学校に入学する適正があるかを調べる
学校のテスト……授業で学んだことが身に付いているかどうかを計る
模試 ……自分の学力を全国の受験者と比較する
入試 ……その学校に入学する適正があるかを調べる
それぞれ目的が違うことがわかりますね。目的が違うので、採点の基準もそれぞれ異なります。
たとえば、多くの模試では、漢字の「跳ね」がなくても減点しません。おそらく高校・大学入試もそれに近いでしょう。何千人もの採点を同じ基準で行うため、あまり細かいところをチェックすることができないからです。
しかしだからといって、国語の先生が「跳ねは気にしなくていいよ~」と言うことはありえません。国語の授業ではきちんと指導しますし、それに基づいてテストを採点します。
基本的にはそういうことなのですが、しばしば疑問が挙がる例について、個別にお話ししましょう。
円周率
小学校4年生では、円周率を3.14として扱います。
ここに、「半径が12cmのピザの面積は何cm2でしょうか」という問題があります。これに対して、「144πcm2」と解答するのは誤りです。数学的には何の問題がないにもかかわらずです。
算数は数学と異なり、生活で役立つ計算が主体の教科です。授業では、「円周率が約3.14であることを理解し、日常生活に応用する」ことを学んでいます。それができるかを見るわけですから、ここでは「452.16cm2」が正解です。
小数点以下のゼロ
少数の筆算をしたときは、3.0の0を斜線で消すことになっています。数学的には3も3.0も同じ量であるはずなのに、なぜそのようにするのでしょうか。
一つには、算数の解答はなるべく簡単にするという不文律があるからです。3.0を許してしまうと、3.00はおろか、無限の解答を許容することになってしまいます。
もう一つは、理科との関連です。科学の分野では、3と3.0はまったく異なる意味を表します。中学校の数学でも、有効数字という考え方が登場します。この表記の違いに気を配る習慣をつけないと、科学・数学の分野でつまずくことになるからです。
かけられる数とかける数
1束85円のニラを6束買うと、いくらになるでしょうか。
この場合、式は
85×6=510(円)
が正解です。ここで、
6×85=510(円)
としてはいけません。答えは同じなのだから問題ないような……気もしますね。
「6×85」という式は、一束6円のニラを85束買うことを意味しています。本人にそのつもりがなくても、「私はそのように考えて答えを出しました」と宣言していることになります。
日常生活においても、式が表す意味は重要です。もしも伝票や注文書がこの順番を無視していたら、契約上の間違いが発生するでしょう。そのようなことがないように、単純な計算のうちから、一般的なルールを身に付けていく必要があるのです。
こんな見積書で「合計金額が合ってるからいいでしょ」というわけにはいきませんね。
直方体の体積
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出典:林先生の初耳学 |
上の画像では、式の順番を守らなかったとして注意される例が挙げられています。たしかに、体積を求めるならばどの順番でもよいはずです。これはなぜでしょうか。
数学では、直方体の体積は「任意の辺Aの長さと、辺Aと垂直に交わる辺Bの長さと、辺A・辺Bと垂直に交わる辺Cの長さの積」によって求められます。見る角度によって変わる「縦」や「横」は、数学にはありません。
いっぽうで小学校の算数では、下の図のように「縦」「横」「高さ」とする辺を固定し、体積は「縦の長さ×横の長さ×高さ」とするのが一般的です。
もし、体積を初めて学ぶ小学生に、「直方体の体積は、『任意の辺Aの長さと、辺Aと垂直に交わる辺Bの長さと、辺A・辺Bと垂直に交わる辺Cの長さの積』によって求められるんだよ。さあ、好きな順番で式にしてごらん」と教えたら、三辺をうまく見つけられずに混乱してしまうことでしょう。
そこで小学校では、実生活に基づいて、「縦×横×高さ」と教えています。また、これまで面積を「縦×横」と学習してきた子供にとって、そこに「高さ」が増えるという考え方は、とても自然でしょう。
さらに今後、三角柱や円柱を学習する際にも、「底面積×高さ」の考え方を応用することになります。そういった意味でも、「縦×横×高さ」の考え方を理解していることが重要です。ですから授業でも立式の順番を指導しますし、テストもその基準で採点されるのです。
まとめ
テストの解答は、問題用紙に指示がなくとも、授業で学んだ方法を用いることが原則です。なぜなら、授業で学んだ方法が身に付いているかを計るのがテストだからです。また、そのような方法を練習するのには、必ず理由があります。ですから、子供が大人に馴染みのない方法で学習していたとしても、その理由を考えてみてください。そして、まずはその子が授業で学んでいるやり方にそって手助けしてあげられるとよいのではないでしょうか。
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