池の水ぜんぶ抜く Remove all water from a pond

「池の水ぜんぶ抜く」というテレビ番組をご存知でしょうか。
外来種によって環境が悪化した池の水をすべて抜いて、本来の生態系を復元しようとするプロジェクトを撮影したドキュメントバラエティーです。

生態系の復元のための事業としてはよい取り組みだと思うのですが、教育的な理由から、私は好きになれません。
今日は、外来種問題を中心に、環境教育についてお話したいと思います。

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「池の水ぜんぶ抜く」ってどんな番組?

「池の水ぜんぶ抜く」は、テレビ東京の「日曜ビッグバラエティ」内で、2017年1月から放送されています。自治体からの要請を受け、専門家監修のもと、外来生物や水質汚濁によって環境が悪化した池の浄化作業を行っています。

作業は以下の手順で行われます。
  1. 水をポンプで吸い上げる
  2. 水中生物を保護、あるいは外来種を捕獲
  3. 池を干上がらせて泥質を改善し、きれいな水を入れ、保護した生物を戻す
番組MCのタレントとともに地元の人々や子供たちが大勢参加し、泥だらけの大盛り上がりとなります。
子供たちは、今まで触れることのなかった生き物に触れ、発見や驚きを覚え、環境に対する理解が深まります。また、自分たちの手で浄化された池の様子に感動し、今後も故郷の自然を大切にしようとする気持ちが生まれるでしょう。
高いエンターテインメント性がありながら、環境保全・環境教育に寄与したすばらしいコンセプトの番組だといえます。



そもそも外来種とは

外来種とは、人間の活動によって、もともと生息していなかった地域に入ってきてしまった生き物のことです。この「もともと」をどのくらい昔までさかのぼるかについて、日本の法律では明治元年以前と定めているようです。

海外から入ってきた生物というイメージが強いですが、国内の異なる地域から流入した生き物も、「国内外来種」と呼ばれています。また、とくに被害を引き起こすとされる外来種は、「特定外来生物」に指定されています。海外からの外来種に限定して「外来生物」という呼称も用いられますが、これは直感的でなくわかりにくいですね。


外来種によって引き起こされる問題

外来種が定着することで、すぐに表れる問題として、農業や漁業への影響が挙げられます。また、毒や病気をもつ生物もおり、直接の被害も懸念されます。
しかし、本当に恐ろしいのは、外来種が生態系のバランスを崩すことです。

外来種が定着すると、生存競争に負けた在来種が絶滅する可能性があります。また、外来種と在来種が交雑して、新しい種が生まれることもありえます。そのように変化してしまった生態系を復元する手段を、人類は持っていません。人類が活動している以上、外来種の拡大を完全に防ぐことは難しいことですが、可能な限りの努力を行うことが、後の世代に対する責任であると思います。


筆者撮影のマジでよくわからんカメ

【注意】環境の正常な変化と環境破壊の違い
生物は常に生存競争を行っており、人類の活動に関係ないところでも誕生と絶滅を繰り返しています。しかしこれは非常に緩やかな変化なので、生態系のバランスを崩すことはありません。ところが人類の活動によって急激に環境が変わると、生態系のバランスはそれに耐えきれなくなり、地球にも人類にも甚大な被害がもたらされます。これが環境破壊です。


  

外来種駆除の必要性

勘違いしてはならないのは、「外来種の拡散を防ぐこと」と、「外来種を駆除すること」はまったく別のことだということです。「外来種の拡散を防ぐこと」は、いつどんな場所でも努力される必要があります。しかし、「外来種を駆除すること」は、常に行われるべきことではありません。

出典 http://yamazakigawa.org
たとえば、駅でも公園でもよく見かけるカワラバト(ドバト)や、渓流に生息するニジマスは外来種ですが、根絶やしにする必要はありません。すでに広く分布しており駆除が現実的でないことも理由ですが、これらの生物が人間に対し与えるメリットが、駆除するメリットを上回っているからです。


同じ生物でも、状況によって駆除されるかどうかは異なります。
たとえば悪名高きブラックバスは、琵琶湖では漁業への影響から駆除されていますが、河口湖では観光産業のために養殖・放流されています。

ですから、外来種イコール悪い生物で、駆除する必要があるという思い込みは危険です。そもそもこの世に悪い生き物とかいい生き物なんていません。

外来種が悪影響をもたらす以上、駆除が必要な場合も当然あるでしょう。ですが駆除は、そこに住んでいる生き物の命を奪うわけですから、慎重な判断をし、効果的な方法に絞り、なにより命に敬愛をもって行われるべきです


  

「池の水ぜんぶ抜く」の問題点

これまで述べたように、外来種の駆除については、環境に対する理解や、外来種に関する正確な知識が必要です。そのような理解が十分でない子供たちに、生物の駆除をさせることは、彼らの考え方にゆがみを生じさせることにはならないでしょうか。

外来種は悪い生き物なんだ。
アカミミガメも鯉もアメリカザリガニも、見つけたら殺したほうがいいんだ。

そんな誤解を生まないか、心配でなりません。
鯉やヘラブナは国内外来種であり、地域によって在来種となります。子供たちはそのことを知っているのでしょうか。

それに、その池では鯉とヨシノボリが何十年も一緒に暮らしてきました。その池のヨシノボリやモロコを保護するために、数百匹の鯉とフナを駆除することが、本当に必要なことなのでしょうか。

私はミシシッピアカミミガメを飼育しています。幼いころから兄弟のように育て、25年になります。
テレビ画面の中ではミシシッピアカミミガメが籠にごみのように投げ入れられています。目を覆いたくなる光景です。駆除はたしかに必要かもしれません。しかし、これが犬や猫だったらどうでしょうか。悲しいことに、今も多くの野良犬や野良猫が駆除の対象になり、命を落としています。しかし、籠に積み重ねて運ぶでしょうか。それを子供たちに行わせ、テレビで放送することが、果たして環境保護のあるべき姿なのでしょうか。私はそこに、命の優劣を感じてなりません。


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<2018年5月3日追記>
 番組で捕獲したカメについては、駆除するのではなく、静岡県内の動物園「iZoo(イズー)」へ預けられているという情報が寄せられました。カメの扱いが雑であったことから、処分されるものと思い込んで記事を書いてしまったことをお詫びいたします。

ただし、寄せられた情報の真偽については確認できておりません。
多方面から指摘されている通り、番組側の「保護した」という声明には慎重な判断をする必要があるでしょう。

J-CASTニュース 「池の水ぜんぶ抜く」ロケで在来魚が「大量死」 「専門家がいない」現場を参加者告発
鮒次郎のブログ 池の水ぜんぶ抜く大攪乱! 2/18




琵琶湖の外来魚回収ボックス

外来魚回収ボックス」をご存知でしょうか。滋賀県が琵琶湖畔に設置している箱で、ブラックバスやブルーギルなどの外来魚を釣り上げた場合、湖に戻さず、この箱に捨てることが推奨されています。「捨てる」と表記したのは、文字通りこのボックスがごみ箱のような形をしているからです。

出典 http://tohoku.env.go.jp 
琵琶湖においてブラックバスを駆除することは、やむをえないことでしょう。しかし、このボックスは本当に効果のある方法なのでしょうか。それに、子供がこのボックスを覗き込んだとき、どのような気持ちになるでしょうか。子供たちは釣った魚を食べることからも、逃がすことからも、命の大切さを学ぶことでしょう。しかし、釣った魚を箱に捨てるとなれば、心にどのようなものが芽生えるのか、私は少し怖くなります。



駆除は大人の仕事

結論として、外来種の駆除は大人の仕事ではないかと思います。生き物の駆除は、どこまでいっても人間の都合でしかありません。そういう事情を理解することが難しい年齢の子供たちに、十分な説明なく駆除を手伝わせれば、前述のような誤解を生むことになるでしょう。

「池の水ぜんぶ抜く」の取り組みは、評価すべき点にあふれています。私はこの番組のすべてを否定したいわけではありません。外来種の問題について、人々や子供たちがより理解を深められるように、一緒に努力したいと願います。