内定学生への研修は必要か Is it necessary to provide training for new employees?

とても悲しく、憤りを感じるニュースがありました。




「SNSでパワハラ」就職内定の大学生自殺 遺族が賠償請求へ

就職が内定していた会社の人事担当者からSNSを通じたパワハラを受けて、大学生が自殺したとして、遺族が謝罪や損害賠償を求めることになりました。
遺族の代理人弁護士によりますと、大手電機メーカー「パナソニック」の子会社で、東京 墨田区に本社のある「パナソニック産機システムズ」への就職が内定していた22歳の男子大学生が、入社直前の去年2月に自殺しました。

この会社では、研修の一環として男子学生を含む内定者20人全員をSNSの交流サイトに登録させ、人事担当の管理職は、内定者に対して毎日閲覧し投稿するよう求めていたということです。

管理職は投稿などが入社後の配属先にも影響するとしたうえで、「僕は露骨にえこひいきするからね。なめるなよ」、「丸坊主にして反省を示すか?」などと、みずからも投稿していたということです。

遺族は、これらがパワハラに当たり、その結果、自殺したとして、会社に対して謝罪や損害賠償を求めることにしています。

NHK NEWS WEB より引用
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200409/k10012377911000.html




私は初め、「SNSでのやりとりだけで自殺するほどまでに追い込まれるものだろうか」と疑問をもっていました。しかし、事件について複数の記事を読むうちに、学生が継続的に暴言や理不尽な課題によって追いつめられていたことがわかりました。

この事件を、「なんて横暴な人事課長だ」と、個人の資質の問題としてとらえてしまうと、問題解決の道が狭まってしまいます。複数の原因をたどることで、たとえば、次のような課題が見つかります。


企業サイドの課題
  • 社員のコンプライアンス意識の向上
  • 複数人による新人研修や内定者SNSの監視


社会サイドの課題
  • しごき、いびりを防止する社会の目
  • 内定者に対する、あるいはSNSを使ったパワーハラスメントへの法整備


中でも私が注目したいのは、

内定者って弱い立場につけこまれてやりたい放題されてないか?

って話です。








内定者を守る法整備を

内定者は、社員と違ってパワハラを受けても相談する窓口がありません。
内定取り消しは企業側にもデメリットが大きいので、めったなことでは発生しないと思いますが、それでも入社後の人事をちらつかされれば、理不尽な要求にもYESと言うほかありません。侮辱的な言葉にも黙って下を向くしかないのです。

2020年6月より通称パワハラ防止法が施行され、全労働者がパワハラから守られるように、相談窓口を設置することなどが定められました。しかし、ここに内定者へのパワハラは記述されていません。


  • 内定者へのパワハラを禁止する
  • 内定者の相談窓口を設置する
  • 内定者への研修のガイドラインを策定する


今回のような事件を二度と起こさないために、早急にこれらの法整備を行うべきでしょう。





そもそも内定者への研修っておかしくね?

ここからは賛否両論があると思うのですが、私個人としては、

内定者への研修っておかしくね? 禁止しよ?

と思っているのでその理由をお話しします。





理由1 学生の本分が奪われる

内定が出ようがなんだろうが、学生は学生です。彼らの時間は社員として教育されるためではなく、学問を修め、人間性を養うためにあるのです。それはなにも大学の講義に限ったことではなくて、仲間とイベントに参加したり卒業旅行に行ったりすることも、学生時代の大切な経験であるはずです。そのための時間を企業が侵すことは、社会全体にとってマイナスです。





理由2 給与が出ないことがオーバーワークの原因

新入社員への研修期間、もちろん新入社員には給与が発生します。働くための訓練ですから当然ですね。訓練に給与が出ないとしたら、消防士も自衛官も成り立ちません。
ところが内定学生への研修には給与が発生しません。会社のために時間を拘束されて、給与が出ないという事実に、私たちはもっと問題意識をもつべきではないでしょうか。

給与を出さなくてよいとなれば、何を何時間でもやらせたい放題になります。今回の事件も、そのような背景から課題がエスカレートしていったことが考えられます。


余談ですが、私が初めて学校に勤務することが決まった大学4年生の3月、当時の校長からは「3月はずっと来てもらおうと思うけど、来られない日ある?」みたいな感じで聞かれました。正直聞いたときには引きましたが、これは校長が悪いということではありません。私のためを思って言ってくださったのです。社会のルール(と教員の研修制度のカスさ)が問題なのです。





さて、内定者への研修を禁止しようと言えば、

「社員が実務に就くのが遅れる」
「突然毎日の勤務にさらされるよりも、事前に慣れておくほうが良い」

という反論もあることでしょう。

それはそうです。実務に就くのは早い方がいいし、会社にだって事前に慣れておくほうがいいと思います。まったく同意します。

が、それは新入社員研修を内定者研修に前倒ししていい理由にはなりません。早く実務に就けるように、新入社員研修を充実させてください。会社に慣れることができるように、やわらかい風土を作ってください。ガイダンスをしっかりして、ストレスを感じさせないようにしてください。それだけです。





内定者研修は、学生側にとって、学生の本分を奪われ、理不尽な要求を受ける可能性があるものです。ですが、企業側にとっては、社員教育を早期に無給で行えるメリットが大きいのです。法整備のないままでは、いつまたこのようにいきすぎた事件が起こるかわかりません。

悲しくも命を絶ってしまった学生のほかにも、大勢の若者が苦しんでいる現状に、私たちは今こそ目を向けるべきではないでしょうか。