仕事を辞めてしばらくして、「うわあ、やな感じ」と思ったのが、さまざまな書類の職業欄のところです。
「主婦」
と書いてあります。

保母は保育士、看護婦は看護師の時代に、「主婦」!!!
これにマルを付けないなら、無職にマルするしかありません。「主婦・主夫」って書いてくれればいいのに……。くそう、男性のホームメーカーは社会に認められていない感じがすごくするよ!
しかしそれ以上に私がむかついたのは、自分が公務員だったときには、私はこのことに違和感すら覚えていなかったということです。自分がマイノリティになって、初めて疎外感に気づきました。
ジェンダーニュートラル
ジェンダーニュートラルという考え方があります。性別を強調することなく、性的に中立な制度や表現のことを言います。人類は長い間、男性と女性に分類されていましたが、近年はその分類の不完全さが理解されるようになりました。また、ステレオタイプな男性像・女性像も見直されてきています。価値観が多様化する中で、旧来の性別に基づく制度や表現の問題点が見えてきました。
そのような中で、旧来の性別を強調した制度や表現を改め、より多くの人にとって受け入れやすい制度・表現にしようという動きがあります。さきほどの「保母 → 保育士」なども、この考え方に基づいています。
注意しなくてはならないのは、なんでもかんでもジェンダーニュートラルにすればいいわけではないことです。それは安易な文化破壊につながります。ひとつひとつケースを確かめていくことが大切ですね。
伝統的な言語文化との折り合い
近年、英語圏では、劇場や鉄道などのアナウンスにおいて、"ladies and gentlemen"という表現を避け、代わりに"passengers"などを用いる動きがあります。これもジェンダーニュートラルの考え方に基づく表現の変化です。
「レディース&ジェントルメン」といえば、日本でもおなじみの表現ですね。この伝統的な決まり文句が消えてしまうと思うと、さみしい気もします。私もこのニュースを初めて目にしたときには、「いやー、そこまでしなくてもよくないか……?」と感じました。
でもそれは自分がマジョリティにいるからこその感想です。
「主婦」だって伝統的な表現です。自分が少数派になるまで、その言葉によってダメージを受ける人の気持ちを考えることができていませんでした。
伝統的な言語表現には、それまでその言葉が支えてきた文化的価値があります。安易に新語に替えることを良しとは思いません。私たちは、言語の文化的価値と少数の人たちの受ける疎外感とを秤にかけたときに、合理性があるかどうかを精査していくべきでしょう。
"ladies and gentlemen"という言葉は、歴史上さまざまな晴れの舞台で大切に用いられてきた言葉です。愛着がある人も多いことでしょう。ですが現代において、性的マイノリティの人々に疎外感を与えてまで使用する合理性はなくなっているのではないでしょうか。
「言葉狩り」にならないように気を付けて
これは本当に気を付けたほうがいいのですが、「主婦」にしても「レディース&ジェントルメン」にしても、言葉そのものを社会から抹殺しようとしちゃいけませんよ。使いどころを考えて、公共の場では別の表現にしようというだけです。
映画やアニメできざなキャラクターが「さて、お集まりの紳士淑女のみなさま」と言ったっていいと思います。『主婦の友』も『おかあさんといっしょ』も、なんっにも悪くない。でも教師が教室で、「お弁当をおうちでお母さんといっしょに作ってみましょう」というのはだめです。使い分けです。
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